伸寿記念クリニック(仮)

肺炎

肺炎とは

ゴホゴホゴホ。。

冬になると辛そうに咳をする方が増えてきます。

電車やバスに乗っていると、最近では新型コロナウイルスの流行に乗じて夏場にもひどい咳をする方がポツポツ見受けられます。

こういう症状が出ている人の中には「肺炎」になってしまって医療機関をすぐに受診した方が良い方がいらっしゃることでしょう。

ここでは、身近な肺炎についてわかりやすくお話しし、その奥深い世界を一緒に見ていきましょう。

肺炎にもいろいろある

さて、そもそも肺炎とは、その言葉の通り肺に起きる炎症の総称です。

より厳密に言えば、肺には肺胞という口から吸い込んだ空気を受け止める小さな無数の風船の部分と、それ以外の部分に大きく分けられます。

この肺胞部分に炎症が起きている状態を肺炎と呼び、それ以外の肺本体部分に炎症が起きている状態を肺臓炎と呼び歴史的に区別してきました。

現実的には肺胞ではなく肺の本体部分に炎症が起きている病態も現在では「肺炎」という病名がつけられていたりしますので、両者は厳格に分離できるものでもありません。

この「肺炎」という病名は一つだけではありません。

つまり、「〇〇肺炎」や「△△肺炎」など、肺炎と病名がつく病気は実はたくさんあるのです。

例えば、細菌性肺炎、マイコプラズマ肺炎、レジオネラ肺炎など、明らかな原因が特定されて、それが接頭辞となるものから、特発性器質化肺炎、特発性間質性肺炎、急性好酸球性肺炎など、漠然としていて原因がこれだとは特定されていない肺炎まで非常にたくさんあるのです。

しかし、結果的に、どんな肺炎にかかったとしても患者さんの症状は似通っていて、咳、痰、発熱などでお困りになっていることでしょう。

そこで、どのくらい前からその症状が始まったのか、どこか旅行へ行ってから始まったなど明確なきっかけはあったのか、悪くなってきたペースはどうなのか、自宅や勤務先の環境はどうなのか、など肺炎に至った経緯を医師と共有することがとても大切になってきます。

肺炎の主な原因は細菌やウイルスの感染、そして誤嚥です

2023年に発表された最新の日本での死因順位をみると、1位が悪性新生物(がん)、2位が心疾患、3位が老衰、4位が脳血管疾患、5位が肺炎、6位が誤嚥性肺炎となっています。

肺はご存知のとおり新鮮な空気を体に取り込む非常に重要な臓器です。

ですから、その部分に炎症が起きてしまい、十分に酸素と二酸化炭素のガス交換が行われなくなると死に直結するため、死因の第5位と6位が肺炎、誤嚥性肺炎となっているのも納得できます。

まず、5位の肺炎から見ていきましょう。

多くの場合、カゼをひいた後にそれをこじらせて肺炎にいたります。

カゼはほとんどがウイルスにより引き起こされた鼻やのどの炎症です。

カゼが長引くと鼻やのどの炎症をきっかけに別の細菌が肺に入りやすくなり、肺胞に炎症を起こします。

これが肺炎です。

カゼをひいた際には鼻が詰まる感じはありますが、通常ハァハァという息苦しさまでは感じません。

パルスオキシメーターという装置や、最近ではスマートウォッチなどでも血中の酸素濃度を簡便に測定することができるようになってきましたが、酸素の取り込みまで下がってしまうような状態は肺炎であり、寝ていれば数日で治るカゼではありませんので、早めに医療機関受診をした方が良いでしょう。

高齢者は特に誤嚥性肺炎に注意

次に、日本での死因順位第6位である誤嚥性肺炎について見ていきます。

誤嚥に似た言葉に誤飲という言葉が存在しますが、両者はそれぞれ全く別の状態を指しています。

誤飲という言葉は、例えば小さなお子さんがガラスのビー玉やボタン電池を口に入れてそのまま飲み込んでしまったり、認知機能が衰えたご高齢の方がお薬を飲む際に包装紙ごと飲み込んでしまったりしたという、本来口に入れるべきではに物を飲み込んでしまった際に用いる用語です。

一方で誤嚥は、食事や飲料など、普段から飲み込むものがむせてしまい、食道ではなく間違って気管に入ってしまったという状態を指します。

気管はそのまま肺につながっていますので、吸い込んだ空気は吐き出せますが、固形物や大量の液体は一度気管を通して肺に入ってしまった場合にはすぐには片付けることができずにしばらく肺にとどまります。

そうするとその場所で化学変化が起きたり、さらには細菌が棲みつく場となったりして炎症が起きます。

これが、誤嚥性肺炎です。

想像していただければわかりますが、若い時には特殊な状況でない限り早々誤嚥性肺炎は起こりません。

なぜなら、食事や飲料が喉に入ると、ヒトは反射的に喉頭蓋という蓋をパタンと閉じて、気管の入り口を閉じます。

そうすることで、食事は食道を通って胃へ流れ込みます。

しかし、この反射機能は加齢とともにだんだん弱くなってしまいます。

結果的に食事や飲料をごくんと飲み込んでも喉頭蓋という蓋が閉じる反応が遅れることで、食事や飲料の一部が気管に流れ込みます。

さらに、その際にうまくむせて咳をすることができないと(ご高齢の方ではそもそも咳をする力が若い時に比べて弱くなっています)、間違って気管に入った食事や飲料はそのままさらに奥へ入っていってしまい、結果的に肺へ流れ込み、これを日常的に繰り返すことで、先ほどの誤嚥性肺炎のきっかけとなるのです。

若い時でも注意

若い時にもこの反射がなんらかの理由で落ちていると誤嚥することがあります。

よく見るケースとしてはお酒の飲み過ぎ、すなわち泥酔があげられます。

酔って吐いてそのまま寝込んでしまったりすると、その後酔いが覚めてから咳や息苦しさ、熱が出たりしますが、その際には誤嚥性肺炎を起こしている可能性がありますので、医療機関を受診した方が良いでしょう。

興味深いことに、誤嚥性肺炎は右の肺に起こりやすいことが知られています。

それは、気管の先は気管支と言って、左右に分岐してそれぞれ左右の肺に入っていくのですが、この右の気管支は構造的に左に比べて直径が太く、さらにより下に向かって伸びています。

そのため、気管に入った食事や飲料は確率的に右の気管支を通って右肺に肺炎を作りやすいのです。

肺炎の種類

マイコプラズマ肺炎、レジオネラ肺炎、インフルエンザウイルス肺炎、今では新型コロナウイルス肺炎など特殊な肺炎もあります。

特殊なケースは挙げればキリがないのですが、ここではニュースなどでも取り上げられるような特に重要と思われる肺炎についていくつかお話ししておきましょう。

マイコプラズマ肺炎

まずはマイコプラズマ肺炎です。

マイコプラズマ肺炎は、「肺炎マイコプラズマ」という細菌(ただし細菌と言っても細胞壁を持たない特殊な病原体であるため一部の抗生物質は無効)に感染することで起こります。

小児や若い人の肺炎の原因としては、比較的多いものの1つで、実施に患者さんの約80%は14歳以下です。

マイコプラズマ肺炎は冬にやや増加する傾向がありますが、基本的に1年を通じてみられ、どの季節にかかってもおかしくはありません。

発熱やだるさ、頭痛、痰を伴わない乾いた咳などの症状がみられ、咳は熱が下がった後も長期にわたって(3~4週間)続くのが特徴ですが、通常寝込むほどではないため、歩ける肺炎(Walking pneumoniae)とも呼ばれています。

レジオネラ肺炎

次にレジオネラ肺炎です。

レジオネラ肺炎はレジオネラ・ニューモフィラという細菌感染で起こる非常に重篤な肺炎です。

水回りに普段から棲みついている菌なので、接触を完全に断つことは現実的ではありませんが、エアロゾルを発生させるような人工環境(例えば噴水、ジャグジー、加湿器など)や循環水を利用した家庭風呂や温泉施設などでは菌量が増え、それを肺に吸い込むことで発症のきっかけとなります。

ただし、日本では公衆浴場や設備などでは定期的な水質検査が義務付けられていますので、どちらかというと注意するのは一般家庭にある循環風呂や加湿器などが定期的な清掃や水の交換が行われているかどうかではないでしょうか。

いずれにしても適切に治療されないとすぐに命にかかわりますので、具合が悪いようならすぐに医療機関を受診した方が良いでしょう。

インフルエンザ肺炎

さて、次にインフルエンザ肺炎についてお話しします。

そもそも医療業界で用いるインフルエンザという言葉自体が多少の紛らわしさを孕んでいます。

インフルエンザには、いわゆる流行性の感染症を毎年引き起こすインフルエンザウイルスと、それとは全く別物のインフルエンザ菌という2つがあります。

ここでは、インフルエンザウイルスによる肺炎についてお話しします。

インフルエンザウイルス肺炎はインフルエンザウイルスへの感染自体が肺炎を引き起こす原発性インフルエンザウイルス肺炎と、インフルエンザウイルス感染症をこじらせてしまい、そこに別の細菌感染を併発することで起こるインフルエンザウイルス関連細菌性肺炎の2つがあります。

健康な成人であればほとんどのケースでインフルエンザウイルスに罹患しても体は辛いですが命まで脅かされることはありません。

しかし、新生児や高齢者、また、抗がん剤や移植などを行なった方では免疫が落ちているため、インフルエンザウイルスに感染したのち、スッキリ回復せずにこじらせてしまうことがあり、中には肺炎に至る方もいらっしゃいますので注意が必要です。

新型コロナウイルス(COVID-19)肺炎

最後に、新型コロナウイルス(COVID-19)肺炎についても触れておきます。

2019年以降、社会のあり方まで大きく変えてしまった新型コロナウイルスの流行ですが、昨今では抗ウイルス薬などの特効薬の開発も進み、またウイルス自体の弱毒化も進んだため、重症化するケースはかなり減りました。

しかし、インフルエンザウイルス肺炎同様、新生児や高齢者、また、抗がん剤や移植などを行なった方では重症化するケースが見られますので注意が必要です。

いずれにせよ、発熱、咳、体の重さや関節痛などがあり、辛いようなら早めに医療機関を受診して診察を受けるのが良いでしょう。

肺炎の診断

肺に炎症が生じると、胸の奥まで深く息を吸い込んだ時にゴロゴロやバリバリと音がします。

聴診器で胸の音を丁寧に聞くことでその存在と位置はおおよそ検討がつきます。

また、胸のレントゲン写真を撮影すると陰影が映りますので、胸部レントゲン検査までは行なったほうが良いでしょう。

場合によっては他の病気との鑑別のため胸部CT検査まで撮影を勧める場合もあります。

肺炎が疑われれば、血液や痰の検査を行って原因となる菌を調べたり、炎症の強さを調べる検査を行います。

インフルエンザや新型コロナウイルスの流行状況に応じて、鼻の奥に細い綿棒を入れて行う検査も行うことがあります。

肺炎の治療

このように肺炎の原因をまず推定し、その後、それに応じた適切な治療を行います。

多くのケースで抗生物質による治療が必要になりますが、その内容については一律ではなく、原因となる菌を思い浮かべながら最も効果の期待できる抗生物質を選択して服用してもらいます。

ひどい時には点滴の抗生物質の投与が必要になったり、酸素の取り込みが不十分になる重症なケースでは入院をお願いすることもあります。

また、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスによる肺炎の際には抗ウイルス薬が使用できますので、それらを適切に服用または点滴する必要があるでしょう。

先ほどお話ししたように、肺炎の中でも誤嚥性肺炎のように誤嚥が原因となっている場合は一時的に食事をストップして入院し、点滴で水分や栄養を補給せざるを得ない場合もあります。

肺の中に貯まった痰を外に出すために胸を叩いたり絞り出したりするリハビリを行うこともあります。

その際にも抗生物質での治療はほとんどのケースで必要になってきます。

特定の肺炎はワクチンで予防できる

肺炎球菌は肺炎の原因としてもっとも多く、また重症になりやすい菌です。

65歳以上になれば肺炎球菌ワクチンを接種するようにしましょう。

一回接種すれば5年間有効です。

現在、肺炎球菌ワクチンは65歳以上の方であれば、定期予防接種として受けられるようになりました。

自己負担なしで受けられますので、詳細はお住まいの地域の自治体ホームページなどをご確認ください。

なんらかの理由で脾臓が無かったり、脾臓の機能が落ちている方は肺炎球菌ワクチンの接種は必須になります。

また、免疫が十分でない小さなお子さんや高齢者ではインフルエンザワクチンを毎年接種しておくことも重要です。

高齢者では新型コロナウイルスワクチンの接種も続けておいた方が現状メリットが大きいと言えるでしょう。

換気・うがい・手洗いを実践して肺炎予防!

うがい・手洗いは日本独特の、しかし非常に有効な感染対策法です。

空気が乾燥する冬場や季節の変わり目はカゼを引きやすくなります。

寒いからといって部屋の換気を怠ると空気がよどんで感染を増長することになりかねませんので定期的に窓を大きく開けて家の換気をしてください。

水回りの清潔を保つことも重要です。

ひどい肺炎にかからないよう、生活習慣に留意して過ごしましょう。

カゼ症状が長引くようなら早めの医療機関受診を心がけて健康的な生活を送りましょう。

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